先生は自分の気持ちより家族が喜ぶことをしたい人でした。その彼が、娘に「久子と暮らすことは譲れない」と宣言した。それは先生にとって、これまでの自身の生き方をひっくり返すほどの覚悟を伴うものだったと感じています。

そんな先生のことが心配で、朝目覚めると、ベッドの中で私は何度も「大丈夫?」と問いかけてしまいます。そのたびに先生は、「久子がいるから大丈夫」。そして、「あなたはあなたのままでいい」と言ってくれます。

何かの役割ではなく、自分のままでいていいという安心感。私が長い間、プライベートでも仕事でも、求め続けて得られなかったものはこれだと、いまはわかります。人生で初めて、あるがままの自分でいることが許される喜び。この感覚が、二人で暮らすなかでの最大の恩恵だと言えるでしょう。

家族のことについては、時間がかかっても、皆が幸せになれるといいと思っています。けれど、悩んでも考えてもどうすることもできないことが人生にはあると知りました。

結婚して2年が経ついま、私たちの年齢での結婚は、新たな家族を作るためのものではないと実感しています。子どもや孫たちに囲まれ、幸せなおじいちゃん、おばあちゃんとして生きていくこととは、両立しない。残りの人生を二人だけで生きていく道を選ぶこと、ではないかと思うのです。

私は、この先の人生を、先生と二人で歩いていきたい。闘病や介護の日々が訪れても、寄り添い抜くと決めています。