小泉の少女心

俳優としてドラマや舞台に出演し、さまざまな役を演じていく一方、プライベートでは引っ越しをし、猫を愛でる毎日。時に充電し、初めて「大人の夏休み」を満喫するなかで、しだいに小泉今日子は元気を取り戻していく。

日々の暮らしを題材にしたエッセイを書くことで、自信を失っていた状態から、「大人女子」代表として「ツヤっと輝く、40代」を迎えるまでに回復していくのだ。

「この連載を重ねながらじっくりリハビリしてたような気がします。リハビリの甲斐あって、これからも攻めの人生を送れそう。」(「エピローグ」174)と本人も言うように、大平洋子編集長に背中を押されて始めた『InRed』での活動が、心身ともに彼女のリハビリになっていたのだろう。

「3年間、書いているうちに自然に片づいてた。居心地のよい生き方ができるようになってたよ。」(170)まさに不惑である。40歳、もう迷うことはない。自分の好きなように生きればよい。女の子の心意気を持ったまま、現実を受け入れればいいのだ。その覚悟が40代以降の「攻めの人生」につながっていく。

「女の子(少女)の心意気」──これは小泉今日子を理解するうえでの重要なキーワードである。彼女はいつも、「少女心」を大切にしている。30代になっても、40代になってもそれは変わらない。

大人の女になると少女心を忘れがちじゃん。まぁ、全面に出して生きるのも気持ち悪いけどさ。でも絶対に心の奥の方で大事に大事に守ってあげなくちゃいけないものだと思う。自分だけが知っている秘密の宝物みたいにさ。庭で雑草と闘ったり、鉢植えを育てたりしてるとね、その自分の少女心をピカピカに磨いてあげているような気分になるんだよね。私の場合は庭なんだけど、それが人形だったり、手芸だったり、読書だったりさ、人それぞれ少女心の隠し場所がちゃんとあるでしょ。大事にしなくちゃね。おばあちゃんになってもちゃんとピカピカに磨いてあげたいよね。
(135)

小泉の少女心は、あの頃を懐かしむという単なるノスタルジーではない。「絶対に心の奥の方で大事に大事に守ってあげなくちゃいけないもの」「自分だけが知っている秘密の宝物」である少女の心。かつては持っていたはずなのに、年齢を重ねるにつれて、大人の女になるにつれて、忘れられ、失われていくもの。

それは、自分が大事だと思うこと、自分の領域を守るということであり、私が私であるために必要不可欠なものだと言うこともできる。

もっと言うならば、それこそ心の自由であり、自分の好きなように自由に生きることにつながる精神が、「少女心」や「女の子の心意気」という言葉で表わされているのではないだろうか。

※本稿は、『小泉今日子と岡崎京子』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。


小泉今日子と岡崎京子』(著:米澤泉/幻冬舎)

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