完全に不安がきえたわけではないけれど、ハルはその百合川の言葉をきいて、ようやく肩の力が抜けるのを感じた。そうすると、強烈な眠気が襲ってきた。
「すいません、じゃあ、あたし帰って仮眠してきますね」
 そういって部屋からでようとすると、百合川はソファーから立ち上がって、ハルに歩み寄ると、優しくいった。
「また大正町まで帰るなんてばかげている。わたしはきみの机に座るから、ここで横になるといい。きみにはちょっと狭苦しいかもしれないがね」
 百合川の指定席のようになっているソファーで眠るなどという大それたことができるわけもない、そう思って首を大きく横にふる。
 百合川は、子どもをなだめるような口調で、まあまあ、とハルの手を取ると、ソファーまで引いていき、そこに座らせた。
 じゃあお言葉に甘えて、としぶしぶハルは横になる。やはりソファーの端から足がはみでた。百合川は笑いをこらえながら、ハルに毛布をかける。
 たったいままで百合川が座っていたので、ソファーは温かくて、ハルは目を閉じた瞬間に眠りに落ちた。
 結局、そのまま眠り続け、夕方、仕事を終えて帰宅する劉に起こされるまで一度も目を覚まさなかった。