ラジオでの法話が人気の僧侶・川村妙慶さん(撮影:霜越春樹)
欲しかった物を手に入れてもさらに欲しくなる。私たちを取り巻く煩悩から自由になるためには、どうすればよいのでしょうか。ラジオでの法話が人気の僧侶・川村妙慶さんが、仏教の教えからヒントを伝えます(構成=篠藤ゆり 撮影=霜越春樹)

仏教の「合掌」は「手放す」ことの象徴

私たちは日々多くの物に囲まれ、執着や嫉妬など、「心の荷物」もたくさん持ちながら生きています。「心の荷物を手放して、自由になりましょう」というのが、仏教の教えの基本です。

仏さまや仏壇を前にした時、私たちは合掌しますが、実はこれには大きな意味があるのをご存じでしょうか。

両手を合わせると、「何も物を持つことができない」、すなわち「いったんすべて手放した」状態になります。その状態で、「自分にとって本当に大事なものは何か?」と己に問いかけることが“手を合わせる”ことの意味なのです。やがて心の荷物を下ろし、必要なものだけを選び取ることができるようになります。

お買い物が好きで、つい買いすぎてしまうという方は多いですね。セールや初売りの福袋を手に入れるためだけに、数時間並ぶ人もいるでしょう。

しかし、手に入れた瞬間に、その嬉しさはあっという間に消えてしまいます。私もそんな経験があるのです。そこで、「何が何でも欲しい!」と思っていたものが、実はそうではなかった、ただの自己満足だったと気づきました。

意外に思われるかもしれませんが、仏教では、物欲を否定していません。「意欲」という言葉があるように、得られるものがあってこそ頑張ることもできると考えるからです。ただ、仏さまは「欲望のためにしか動けない人にはならないように」とおっしゃっています。

仏教絵画では、欲望に囚われた者の象徴として、しばしば「餓鬼」の姿が描かれます。そのお腹はふくらんでおり、十分満たされているのに「まだ欲しい」と苦しんでいる。それは、仏さまの目から見れば、物欲から逃れられない私たちの姿。

家に物が溢れている人、いくら買っても満たされない人は、自分が餓鬼になっていないか、今いちど考えてみてはいかがでしょう。