二科展の彫刻部門に入選した「木彫楠公像」。9月13日まで国立新美術館で公開されていた(写真提供:秋川さん)

歌も彫刻も俯瞰の視点で全体を見て

ところが、いざ彫り始めると、たくさんの難所がありました。正成公の馬の手綱を握った手と、胴体と馬との間を彫り進んだりとか……。木目に沿って彫らなければいけないので、場所によっては手を逆にして彫ったりする必要がある。

兜の裏側を仕上げるために、とか、その都度、特注で彫刻刀を注文しました。1箇所を彫り終わったら、一切出番がない彫刻刀もある。いつの間にか100本以上手元にあります。

皇居前の楠木正成公像は全長が4メートルもあり、下から見上げることが前提になっています。一方僕の彫像は60センチですから、顔の向きをはじめ角度や細部を自分でバランスを変えて制作していく必要がありました。彫っては少し離れたところから眺め、また彫っては眺めを繰り返します。

木彫刻というのは、折れたのを接ぐことはできるのですが、彫りすぎてしまうと2度とやり直すことはできません。でも、毎日毎日取り組んでいると細部だけにフォーカスしてしまって、全体のバランスがわからなくなってしまう。

ここには歌との共通点があるのですが、歌も練習していて1ヵ所気になるところがあってそこばかり練習してしまうと、なぜか不調になってくる。そういう時は3、4日休んで、俯瞰の視点で見ることで初めて、もう一度全体の調和が取れるようになります。

彫る部位によって、その都度特注で彫刻刀を注文し、いつの間にか手元には100本以上の彫刻刀があるという秋川さん(写真提供:秋川さん)