一人暮らし

東京に出てきて、ここまで人と関わらずに生活できるものか、と驚いた。地方では引っ越しの挨拶はするのがマナーだが、東京ではむしろ挨拶はするなと言われる(特に女性が1人暮らししていることが知れるのは防犯的にリスクらしい)。同じアパートの住人は、ごくたまに家の前で鉢合わせたら挨拶くらいはするが、名前は知らないし顔もおぼろげだ。うちは回覧板さえ回ってこない。子どもがいないと地域コミュニティと関わることもない。

普段はひとりでも困らないが、体調を崩したときは本当に参った。救急車で運ばれたとき、「一緒に住んでいる人はいますか。迎えに来てくれる人はいますか」と聞かれ、「いません」と答えたときは我が身の孤独を突きつけられた。深夜に体調を崩したときも、ひとりで体を引きずりながら救急外来に行った。コロナのワクチンの副反応が出たとき、コンビニに行く力もなく、何時間もベッドの上から動けなかった。入院したとき、洗濯物を家に取りに帰る必要があったのだが、一緒に住んでいる人でもいれば頼れたのかな、なんて思った。

『死ねない理由』(著:ヒオカ/中央公論新社)

そして1人暮らしって本当にコスパが悪い。都内では家賃7万出しても6畳ワンルーム。2人分の収入があればもうちょっと広いところを借りられたりするのにな、と思ったりする。この時期だとエアコン代がかさむが、1台つければ2~3人で使用できるのに、1人暮らしだとたったひとりのためにつけないといけない。電気代や水道代、ガス代など、複数人で同居したほうがひとり分の料金を安く抑えられるだろう。

1人分の料理って量が難しくて、野菜や残飯を腐らせてしまうことがあるし、昼夜と同じメニューになりがちだ。地味に1人暮らしのわずらわしさを感じるのが、ケーキを食べたいとき。スーパーで売っているのは必ず2個入りで、チーズタルトを食べたいと思ってもワンホールしかない。ひとりじゃ食べきれない、といつも買うのを諦める。

なによりひとりだと、例えば意識を失ったりして救急車も呼べないようなとき、発見が遅れて命を落とす可能性や、障害や後遺症が残る可能性も高くなりそうだ。私の親戚は、1型の糖尿病を患っていたのだが、1人暮らしをしているときに倒れ、発見が遅れたせいかそのまま植物状態に。11年間意識が戻らず、そのまま亡くなった。もし同居人がいれば、こうはならなかったかもしれない。