表現豊かな日本語にふれて《心の貴族》に

音楽学校に入るため東京に出てきたのは、16歳のとき。当時、東京の山の手の人たちは、本当に美しい日本語を使っていました。たとえば「私が」と言うときも、「が」を少し鼻にかかった鼻濁音で発音するので、語調がやわらかく上品になります。

そうした日本語の美しい響きを大事にしつつ、古きよき時代の日本語表現にもふれてみてはいかがでしょう。その方法の一つとして、美しい言葉で書かれた小説や詩を読むことをおすすめします。たとえば、岡本かの子、幸田文、北原白秋、佐藤春夫、宮沢賢治、川端康成、谷崎潤一郎、泉鏡花などが書いたものは、表現が美しく、言葉のリズムも個性的です。

今期の大河ドラマ『光る君へ』は紫式部がモデルのようですが、『源氏物語』にもぜひ親しんでいただきたい。原文で読むのが難しければ、瀬戸内寂聴さんの訳を始め、現代語訳が何種類もあります。男女の機微や、貴族の衣装、庭の草花などが美しい言葉で書かれた美的な世界に触れると、感性が磨かれ、《心の貴族》になれるかもしれません。

 

●今月の書「美しい言葉」

今月の書「美しい言葉」(書:美輪明宏)
(書:美輪明宏)