歌舞伎仕立てのハムレット
歌舞伎の世界に話を戻すと、幸四郎さんが金太郎として初舞台を踏んでから2年後、8歳で七代目市川染五郎を襲名する。この時、祖父八代目幸四郎は初代白鸚に、父染五郎が九代目幸四郎に、という華やかな三代襲名となった。
披露狂言『仮名手本忠臣蔵』「七段目」の大星由良之助役の祖父に、まだいたいけな感じの幸四郎さんが力弥役で厳しく稽古をつけられる姿を私は映像で見ている。
――ええ、あの映像をご覧になった方々からはよく言われます。あれ、実を言うと稽古風景を撮影する時、まだ祖母から教わってなかったんです。祖母は初代吉右衛門の一人娘で、芝居のことは何でもわかってて僕のお師匠番でしたから。
それで映像では「違う違う、もう一回。いや違うだろ」って怒られてましたけど、あれ、教わってなかったからなんです。祖父との共演はあの時が最初で最後です。
今思えば祖父は10月11月に襲名披露興行をして、翌年の1月にはもう亡くなっているんですから、命がけの舞台とはこういうことだったんだな、と思いますね。