金属工場の記号

消えたこの3種類の他に、その後「大正6年図式」まで存続した5種類の記号を順に見ていこう。

まず造船所(「明治33年図式」から「大正6年図式」までは「造舩所」の表記)は読んで字のごとく船を造る工場であるが、一見「渡船(とせん)」の記号に似た船の平面形に〒のような形を重ねた、建造中の船をイメージした記号であった。

<『地図記号のひみつ』より>

造船所の乾(かん)ドックは明治の図式では煉瓦のような模様を描いて周囲に護岸の記号をめぐらして示され、大きな縮尺であれば起重機(クレーン)の記号もあって、それらしい雰囲気を出していた。

次の鍛工所であるが、鍛工とは日本刀のように金属を文字通り鍛えてモノを作ることで、刃物以外にも耐熱性と強度を求められるエンジン部品や歯車、バルブ等の加工に用いられる技術である。

記号は工場記号の歯車に旗が立ったような形をしているが、旗に見えてこれは鍛えるためのハンマーかもしれない。

対して鋳造所は、溶かした金属を鋳型に入れ「鋳物」を作るところだ。こちらは歯車から湯気か煙が立つような形である。鍛工所と鋳造所は「明治42年図式」で統合され、前者のハンマーつき歯車記号を「鍛工所及鋳造所」として表すことになった。