記号の分類を欧米のように行わなかった理由
もうひとつの記号である「JR線以外」は以前の私鉄(民営鉄道)の記号だ。
太線にトゲのような短線を4ミリおきに交差させる(複線以上の場合は短線が2本ずつ)。こちらはフランスやアメリカなどで用いられている。
「民営鉄道」の用語が消えたのは、国鉄の民営化で国内の鉄道の大半が「私鉄」になってしまったことに加え、自治体が出資する第3セクター鉄道が増えたという事情も影響しているだろう。
自治体が線路を保有して民営会社が列車を運行する「上下分離方式」など、一口で私鉄とも公営とも言い難い事例が増えたという事情もある。
他には「地下鉄及び地下式鉄道」という記号もある。地形図では茶色の破線で示されるが、地上に出れば「JR線」や「JR線以外」の記号に変身する。
「平成21年図式」までは黒い破線のトンネルと茶色の破線の地下鉄は区別されていたが、「同25年図式」からは両者とも茶色の破線に統一されたので、地下を走っている鉄道は今やすべて「茶色の破線」でわかりやすくなった。
実は日本のように鉄道の地図記号を経営主体で区別している国は珍しい。欧米では標準軌(レールの幅の内側の間隔=軌間が1435ミリ)を普通鉄道と位置づけ、それより軌間が狭い狭軌鉄道を一段細い記号で表現するのが一般的である。
これは国の基幹輸送を担うことの多い標準軌の鉄道と、輸送力が相対的に小さくスピードが遅いローカル線である狭軌線を区別することで、交通の実体をわかりやすく表現するためだ。
日本では明治5年(1872)に新橋―横浜(現桜木町)間がイギリスの指導で開業した時に狭軌(1067ミリ)が採用されたことから、基幹輸送を担う重要幹線も長らく狭軌だった歴史がある。
新幹線の登場で旅客輸送の一部は標準軌となったが、その他の在来線は阪急や京阪、京急など一部の私鉄を除けば現在に至るまで狭軌が基本だ。
このため軌間の広狭では輸送の実体を表現できず、それが記号の分類を欧米のように行わなかった理由だろう。