芝居がハネた後、だらだら町を歩いて、一人欠け、二人欠け。最後にラーメンを食べて解散しようとなってテーブルに座ったら、目の前に花さんがいた。「花ちゃん、今いくつ?」と聞いたら「61」。彼女自身、自分がそんな年齢になっていたことにびっくりしているようでしたし、僕もびっくりしました。
その後は時々届くハガキが唯一のつながりというか……。本を出すたびに送ってくれるし、目立たないようなところで書評めいたものを書くと、必ずお礼のハガキが来る。あんな記事、よく見つけるなぁ、と思ったものです。
花さん独特の嗅覚というか、人があまり注目しないようなところに行ってカメラのシャッターを押す、あの感じに通じるなと思いました。
ハガキの文面は、いかにも花さんらしく、ぼそっとした感じで、独特の息遣いが聞こえてくる。「花さんらしい」がそのまま形容詞になるような言葉の選び方でした。
花さんは、忘れ去られたような風景の中に猫がいる写真でよく知られています。発表されているのは、ほぼすべてモノクロ写真。でも、現実の世界はモノクロではなく、カラーなわけです。
たぶん、花さんがじーっと風景を観ていると、花さんの感覚で色彩が漂白されていくのではないか。それは彼女が観た世界であって、現実の風景に向かってシャッターを切ったというのとは、ちょっと違う。いわば、花さん色に染まった白黒写真という感じです。
そこには、特殊な環境で育った屈折した娘の感性も、垣間見えます。