『オートリバース』著◎高崎卓馬

 

小泉今日子に夢中になったあの頃

タイトルを見た瞬間、懐かしさで胸がいっぱいになった。「オートリバース」とはカセットデッキの機能で、テープのA面が終わると自動的にB面に替わりエンドレス再生ができる、というもの。それがないと、テープをいちいち取り出して返さなければならなかった。

物語の主人公・橋本直(なお)もオートリバース付きのデッキで音楽を楽しむ高校生だ。時代は1980年代はじめ、千葉に引っ越してきた直は、登校初日、同じ転校生の高階と出会う。学校にも家庭にも居場所がないと感じていた彼らは、当時売り出し中のアイドル・小泉今日子に夢中になっていく。そして親衛隊に入ることになるのだ。

そんな熱い親衛隊の様子が瑞々しい筆致で鮮やかに活写される。校内暴力、インベーダーゲーム、人気番組「レッツゴーヤング」「ザ・トップテン」の収録やアイドル生写真売りのおじさん等々、当時の流行、世相、アイドル・カルチャーをふんだんに取り入れながらの描写には胸躍る。時々、彼らをリアルに目の前で見ているような、それが急に遠く小さくなったりするような、不思議な距離感にとらわれた。彼らの初恋に似た心の揺れ、喜び、不安、どの瞬間もキラキラ感が半端なく鮮やかに焼き付けられる。しかしそんな日々も「ザ・ベストテン」の小泉今日子のランキングが上がっていくにつれて、終焉と喪失を漂わせるものになっていく。

高階は直に〈オートリバースってさ、嫌いなんだよ〉〈勝手にひっくりかえるから〉と何度かつぶやく。直との日々がエンドレスではなく、終わりがあること――喪失によって「永遠の輝き」を得られることを教えてくれる、王道なる青春小説なのだ。

 

『オートリバース』
著◎高崎卓馬
中央公論新社 1400円