2018年1月、三代襲名の口上にて。右から父・二代目白鸚、十代目幸四郎、長男・八代目染五郎(写真提供◎松竹)

襲名翌年の9月、叔父に当たる中村吉右衛門が『伊賀越道中双六(いがごえどうちゅうすごろく)』「沼津」の呉服屋十兵衛役をつとめていて途中休演になった時、それまでまったく十兵衛の経験のない幸四郎さんが突然の代役を見事に果たした。これなども名前替えによる自覚の賜物か、と大きな話題を呼んだが。

――あれは自分でも、そんな勇気がどこにあったんだ、と今は思います。開幕1時間前に急に言われて、2時間の芝居の、それもまだまったく演じたことのない大役を代わったんですからね。

まぁ以前、新橋演舞場で孫八という役で出て叔父の十兵衛をつぶさに見ていたことはありましたので、できませんとは言えないし、もう気持ちを切り替えて集中しました。

衣裳も鬘も叔父のもの。叔父にはどっしりした印象があって、僕には衣裳がブカブカかと思ったらそうでもなくて、いつのまにか僕も育っていたんだな、と複雑な思いでした。(笑)

その後、父・白鸚の平作(十兵衛の実父で老人の雲助)で十兵衛を演じることになったんですが、この時はコロナ禍で劇場が閉鎖になって、舞台稽古の際に配信用に一度だけ、本番通りの舞台をつとめました。

誰もいない客席を父と二人で愛嬌を振りまきながら歩くんですが、かえって芝居に集中できたし、あれは父との特別な時間でしたね。

この十兵衛役は、代役の3日間と、無観客で1日。でもようやく今年4月のこんぴら歌舞伎金丸座で、初役でやらせていただきましたのでね、だから「沼津」というのは僕にとってすごく特別なお芝居になりましたね。

やっぱり襲名が第3の転機になるのかなぁ。