「幸四郎になったからもうあんまり冒険的な役はできないよね、なんて言われますけど、やっぱりやるべきだと思ったら変わらずやりますからね」(撮影:岡本隆史)
演劇の世界で時代を切り拓き、第一線を走り続ける名優たち。その人生に訪れた「3つの転機」とは――。半世紀にわたり彼らの仕事を見つめ、綴ってきた、エッセイストの関容子が聞く。第32回は歌舞伎役者、俳優の松本幸四郎さん。2018年に高麗屋の名跡を襲名、十代目松本幸四郎として活躍を続けている。松本金太郎としての初舞台から、辿ってきた道のりとは――。

前編よりつづく

コロナ禍で得た父との特別な時間

2018年1月、またしても高麗屋ご一家の三代襲名の慶事に立ち会うことになった。父・幸四郎は二代目白鸚に、ご自身が十代目幸四郎に、そして長男の金太郎が八代目染五郎を継ぐ。これは役者にとって身の引き締まる大イベントだから、やはり第3の転機か。

――名前が変わると演技がどんなふうに変わったかって観に来るお客様もいらして。でも名前が変わっただけで芸が大きくなるのなら、もう毎日襲名したいと思いますよ。(笑)

染五郎だった時代のものがちゃんと僕にあって、父が名前を譲るという決断をしたんでしょうし、それまでと変わらずに舞台に立ち続けるということが大事かな、と思います。

幸四郎になったからもうあんまり冒険的な役はできないよね、なんて言われますけど、やっぱりやるべきだと思ったら変わらずやりますからね。