小谷 老いと社会との関係を考えたとき、いまの日本人にいちばん欠けているのは「助けて」と言える関係だと思うんです。ふだん親しくしていなくても、いざというとき助けを求められる関係を日頃からどう築いていくかが、老いの準備として必要ではないでしょうか。

稲垣 そう思います。コロナが感染拡大したときに体調を崩し、同じマンションの友達に「検査キットはない?」と聞いたら、すぐに届けてくれてありがたかったです。そうして一度助けてもらうと、「何か困ったときは頼ってね」とこちらも言いやすい。

小谷 互いに「助けて」や「ありがとう」を言えて、気軽に支え合う関係を結べるといいですね。

吉永 この年になると、長年の友人が亡くなったり認知症になったりして、昔話ができなくなるのは想定外の寂しさだった。

でも考えてみれば、周囲に同年代の人はたくさんいるんだから、まったく違うタイプの新しい友達ができるかもしれない。健康やお金は減るばかりだけど、人の縁は増やしていけるわけで。

小谷 私は夫の死をきっかけに、配偶者を亡くした人が交流する「没イチ会」を結成しました。ますます進む長寿社会で、夫婦どちらかが必ず遭遇する《死別》を特別視する社会を変えたい。先立った配偶者のぶんも人生を楽しむ、というテーマを発信していきたいと思います。

稲垣 私の目標は、ひとりでも最期まで幸せに生きること。そのためには、弱っていく自分に応じて自分の欲や身の回りのものを極力少なくし、身の丈に合った暮らしをしていきたい。

そうして自分が常に満足できていれば、周りを気遣う余裕もできて、身近な人とお互い助けたり助けられたりしながら死んでいけるんじゃないかと。それは一種の冒険で、どこまでできるか想像するとわくわくします。

吉永 今日は「おひとり様の将来」というテーマで、やや辛気くさい話になりそうと想像してたけれど、思いのほか前向きで面白い話が聞けて楽しかった。次はぜひ、おひとり様3人で飲みに行きましょう!

稲垣 もちろんです。

小谷 ぜひぜひ!