「老化」を防いだり改善したりして、老いずに歳を重ねるということができる社会が到来するかもしれない(写真提供:写真AC)

2024年9月4日の『クローズアップ現代』は、「健康寿命を延ばせるか《老いにあらがう》研究最前線」がテーマ。健康なまま元気に過ごせる「健康寿命」を延ばすことはできるのか――。過熱する「抗老化」競争の最前線に迫ります。今回は番組に登場する中西真教授が「老い」の仕組みについて解説した、2022年02月16日公開の記事を再配信します。
*****
100歳になっても、30代の頃と変わらない容貌と肉体を維持できたら――そんな夢のような話が近い将来、実現するかもしれない。東京大学医科学研究所などの研究チームは、マウス実験から「老い」の原因となる「老化細胞」を除去する薬として「GLS-1阻害薬」を見出した。研究チームの東大教授・中西真氏が老いの仕組みを解説する

「老い」の正体がわかってきた

私たち、東京大学医科学研究所などの研究チームは2021年1月15日、アメリカの科学誌『サイエンス』に次のような論文を発表しました。

〈老齢のマウスに、GLS-1という酵素の働きを阻害する薬剤を投与したところ、老化細胞の多くが除去され、老年病や老化が改善した〉

私たちは、「老い」の原因となる「老化細胞」が生存するメカニズムを読み解き、そこから「老化細胞」を選択的に除去するための薬を導き出しました。

老化細胞というのは、つまり、細胞分裂せず増殖をやめてしまった細胞のことです。その老化細胞が、死ぬことなく生き延びていることで、私たちの肉体はさまざまな形で老化していくということがわかってきました。

この老化細胞を生き延びさせている酵素をブロックすることで、老化細胞を死滅させて除去することが可能になる、というのが、私たちが発見した「老化」を防ぐメカニズムです。

老化細胞は慢性炎症を引き起こし、肉体を老化させる要因のひとつとなる細胞です。臓器の老化、脳の老化、皮膚の老化……。それらの少なくとも一部は、老化細胞によって引き起こされる「老い」の現象なのです。今、私たちは、この薬の実用化に向けた研究を進めています。

この薬が広く一般に向けて実用化されれば、「老化」を防いだり改善したりして、老いずに歳を重ねるということができる社会が到来するかもしれません。