影響を受けた映画

自分の存在を否定していた当時、影響を受けた映画の一つが『岸和田少年愚連隊』です。そこに映し出された一人一人の登場人物たちの人生が映画のフレームの外にも確実にある、と感じました。役者になれば、他の人の人生を生きることができる、そんなふうに思えたのです。

そして実際に役者になったことで、自分の辛い思いや当時の境遇を恨んだ気持ち、全てが武器に変わっていった。さらに役者という職業は、今はこの世にいない大切な人たちを記憶しているこの肉体を使って仕事ができる。それが表現として他の人にも伝わっていくわけですから、間接的に彼らを生き続けさせられると感じるのです。

子どもの頃の辛い記憶や、大切な人を亡くした悲しみを乗り越えることは難しい。ましてや忘れることなんてできないし、何かのきっかけでフラッシュバックを起こすこともあります。人の心の傷は癒えるというより、その傷と共に生きる術を覚えるだけなのではないかと僕は思っているんです。

この世には「もし、あの時こうしていれば」という人の思いが溢れているのではないでしょうか。でもそれは無駄なことではなくて、“もし”と考えを巡らせるからこそ、これから先の生き方も見えて来る。この作品は、悲しみを抱えながら生きている全ての人たちに“かすかな一歩でいいから踏み出そうよ”と、現実味のある背中の押し方をしてくれるのではないかと思います。ぜひ実際に、劇場でご覧いただけたら嬉しいです。

 


Bunkamura Production 2024/DISCOVER WORLD THEATRE vol.14
『A Number―数』『What If If Only―もしも もしせめて』

出演:堤真一、瀬戸康史/大東駿介、浅野和之 ほか
作:キャリル・チャーチル
翻訳:広田敦郎
演出:ジョナサン・マンビィ
美術・衣裳:ポール・ウィルス

2024年9月10日(火)より東京・世田谷パブリックシアターにて
2024年10月4日(金)より大阪・森ノ宮ピロティホールにて
2024年10月12日(土)より福岡・キャナルシティ劇場にて上演

HP:https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/24_churchill/