心の病のレッテル貼りを煽るマスメディアの罪
精神疾患の不用意なレッテル貼りは、マスメディアの影響も甚大です。
テレビや雑誌などは、視聴者や読者が興味をもちそうなキャッチーなワードを見つけると、それが深刻な病気であってもお構いなしに、ファッションなどと同等の「流行りもの」として取り上げ、人々の感情を煽るところがあります。
かつて世間を席捲(せっけん)した「アダルト・チルドレン」という言葉も、その代表の1つです。
アダルト・チルドレンというのは、本来はアルコール依存症の人がいる家庭で育ち、幼少期に身体的・精神的な虐待を受けたことで、成人後もその影響が強く残っている重度の精神疾患を指します。
ところが、アダルト・チルドレンという言葉が独り歩きして、ちょっと親に厳しいことをいわれた人までアダルト・チルドレンを自称するような一種のブームとなり、当時、精神科には「自称・アダルト・チルドレン」がどっと押し寄せました。
私のところにも時々来ましたが、話をよく聞いてみると、子どもの頃に親によく叱られたとか、親のしつけが厳しかったという程度のケースがほとんどでした。
それまでは普通に生活していた人が、アダルト・チルドレンという病名を知って、「まさに自分はこれだ」と思い込み、急に親を恨み出したり、親を罵倒するようになったりする。
そんな人が続出したのです。数年前の「毒親」ブームも同様です。
日本人の被暗示性(他者や環境の影響を受けやすい傾向)の強さを示す一例ですが、テレビやネットなどで話題になると、ちょっとしたことで「自分は心の病だ」と思う人が増え、これも精神科の混雑を招く要因となっています。
つまり、メンタルを病む人が急に増えたわけではなく、メンタルクリニックを受診する人が増えたということです。