夫婦関係がいい意味で希薄に
生田 先生は37歳で作家デビューなさったということですが、プロになったことで、それまでと変わったことはありますか?
あさの プロ・アマ関係なく、書くという行為は、自分を見つめることになる。自分が何を思っていたのか。どんな感情を心に隠し持ち、どうごまかしてきたのかも、書くことで明確になります。
私は、主婦としてまわりからも認められる生き方をしたほうが楽だからそちらの道を選んでいたんだ、と気づきました。「ものを書きながら主婦もちゃんとやっている私」を世間に対して演じていた。そういう自分の卑小さや、古臭い考え方がはっきり自覚できました。
生田 自分と向き合うというのは、ある種の厳しさも伴いますね。
あさの そうかもしれません。「主婦をしながら仕事をしています」みたいな考え方自体、男が作ってきた価値観だと再認識しましたし。
生田 確かに「夫をしながら仕事をしています」とは言わないですものね(笑)。ところで私の夫はまだ現役ですが、先生のダンナさまは?
あさの 2年前に歯科医を辞めました。その時ポンと肩を叩かれて、「これからは、あんたが大黒柱やから。電気代と水道料金、あんたの口座から引き落とすようにしてや」と言われて、はぁ? と(笑)。その時に、「これからは時間があるのだから、自分のことは自分でしてくださいね」と宣言して、楽になりました。
生田 素晴らしいですね!
あさの 今回も夫を放ったらかして、1週間、岡山を離れています。彼が仕事から自由になったことで、2人の関係はいい意味で希薄になった。食事も、晩ご飯は私が作るけれど、朝食と昼食は各自でとります。夫の定年は、妻が何かしらアクションを起こす節目だと思うのです。よく、夫が定年後、家でゴロゴロしているからいやだ、と聞きますよね。
生田 私のまわりでも、今からそれを想像して怯えている人がいます。
あさの それは一見、夫の問題であるように見えますが、同時に自分の問題でもあると思う。