夕顔と光源氏の出会い

さて、「夕顔」は第二帖「箒木」に出てくる「雨夜の品定め」で、光源氏の妻(葵上)の兄で親友「頭中将」の身分の低い恋人(通称「常夏の女」)と同一人物です。

『謎の平安前期―桓武天皇から『源氏物語』誕生までの200年』(著:榎村寛之/中公新書)

彼女は頭中将の本妻の嫉妬により、まだ小さい娘と共に姿をくらました、と説明されていました。その人と光源氏がたまたま巡り会ったのです。

「夕顔」の発端は、光源氏が「六条のあたりを忍び歩いていた頃」、つまり先の東宮の未亡人「六条御息所」と密かな恋を楽しんでいた頃のこと。

その途中、五条あたりで療養している元の乳母(惟光の母)を見舞った時、その隣りの小さな家(のちに、夕顔の乳母の娘の持ち家だとわかります)に隠れて住んでいる女と知り合うところから始まります。そのきっかけが、垣根に咲いている夕顔の花だったのです。

さてその夕顔は、早くに両親を亡くした「三位中将の娘」と説明されていて、数人侍女がいるような生活を送っています。

ただ、三位にまで上がって近衛中将というのは、貴族なのに参議以上の政治家にはなっていない、つまり「政治基盤を固める前に若くして亡くなったいいとこの坊ちゃん」だといえるでしょう。こういう家の遺児は強い後見がないとなかなか苦しいのです。

そして頭中将の正妻は右大臣家の姫なので、夕顔よりもはるかに身分が高く、その圧迫に耐えかねて下町に隠れ住んでいる、という設定です。