「五条」「六条」、「夕顔」「朝顔」の対比

当時の平安京では、左京の三条以上が主に貴族や皇族の住む所。源氏の邸宅もこの頃は二条院です。

そして五条は典型的な庶民の街で、六条になると郊外なのですね。下町をはさんだ向こうに高級別荘地があるというイメージでしょうか(だから源氏は六条御息所の邸宅跡を拡大した六条院を建てたのです)。

そういうところから、夕顔は六条御息所とよく比較される書き方をされています。

たとえば夕顔の花自体が、下々の家に咲く白い地味な花という書かれ方なのに対して、六条邸で御息所をイメージする花とされるのは華やかな朝顔の花。

朝顔というと「朝顔」帖の題名にもなる「朝顔斎院」が有名ですが、「夕顔」帖では朝顔は六条御息所の花なのです。

五条と六条、夕顔と朝顔という対比で光源氏の「隠れた恋人」、親友の行方不明の恋人である夕顔と、先の東宮の未亡人である六条御息所が語られているわけです。

なお夕顔に対比される女性はもう一人います。「夕顔」帖の前の「空蝉」帖のヒロイン、後世に「空蝉」と通称される人です。

彼女は伊予介の年若い妻で、光源氏と一夜の契りを結びます。しかしその後は光源氏を拒否し続けます。

それに対して夕顔は、光源氏に迫られると決して嫌とは言わない、なよなよとした女性として描かれる。共に身分の高くない女性ですが、恋のあり方が対照的だとされています。