六条御息所の影がないのは少し寂しい
光源氏は、その前の段落で、ひたすらに彼を信じる夕顔の無邪気さと、自尊心の高い六条御息所を比べて色々思っています。
「夕顔」帖の末尾でこの物怪は、「荒廃した家などに住む妖怪が、美しい源氏に恋をしたがために、愛人を取り殺したのである」と光源氏に理解されていますが、六条御息所と関係付けて、六条御息所の生霊と理解されることも多いのです。
しかしながら『光る君へ』では、安倍晴明は活躍するのに、怨霊や生霊は迷信を信じる人たちの心の中にしか出てきません(生霊の祟りは、確かまひろの“仮病”として一度出てきましたが)。
それもあって、六条御息所のモデルはドラマの中には出てこないのでしょう。あえて言うなら、道長の次妻・源明子の怨念と嫉妬がそれにあたるのでしょうか。
著者の感想としては、「夕顔」帖の断片が取り上げられてはいるものの、この後も含めて、『源氏物語』のラスボスとも言える、六条御息所の影が『光る君へ』の中で見られそうにないのは、少し寂しく感じてもいます。
『謎の平安前期―桓武天皇から『源氏物語』誕生までの200年』(著:榎村寛之/中公新書)
平安遷都(794年)に始まる200年は激変の時代だった。律令国家は大きな政府から小さな政府へと変わり、豊かになった。その富はどこへ行ったのか? 奈良時代宮廷を支えた女官たちはどこへ行ったのか? 新しく生まれた摂関家とはなにか? 桓武天皇・在原業平・菅原道真・藤原基経らの超個性的メンバー、斎宮女御・中宮定子・紫式部ら綺羅星の女性たちが織り成すドラマとは? 「この国のかたち」を決めた平安前期のすべてが明かされる。