甲州ワインをおいしくしたシュール・リー製法
フランス・ロワール地方の大西洋側には、「ムロン」というマスクメロンに通じる香りがする珍しい品種がある。日本では「ミュスカデ」と呼ばれることも多い。
有名な「シャルドネ」や「ソーヴィニヨン・ブラン」とは異なり、「ムロン」はシュール・リーと呼ばれる独特な製法で、酸味の利いた辛口ワインに仕上げられるのだ。シュール・リーとは、フランス語で、「滓(おり)の上」という意味である。
滓とは、発酵が終わった後でタンクの底に沈んでいる沈殿物をいう。ほとんどが酵母の死骸である滓は、発酵が終わった後にできるだけ早く取り除くのが鉄則。遅れると、滓からワインをまずくする雑味が出てきてしまうからだ。
だが、あえてこの滓を残しながら熟成させるのがシュール・リー製法で、これによって「甲州」を使いながらも優れた辛口ワインを造ることが可能となった。
メルシャンはこのシュール・リー製法により、1983年(昭和58年)に辛口の甲州ワインをはじめて商品化したのである。
メルシャンがこの製法を企業秘密として社内に閉ざすのではなく、外部に広く開示したことにより、こうした甲州ワインを生産するワイナリーが次々と生まれていった。