中学生の麿さんが演じた戯曲はチェーホフの『熊』とか、木下順二の『夕鶴』とか。『夕鶴』は当時の学校演劇でかなり流行った人気演目。
――『熊』では酔っ払いの親父の役。鼻を真っ赤にしてね。『夕鶴』では与ひょう。やはり木下順二の『彦市ばなし』の彦市とかもやりましたよ。高校に進んでも相変わらず演劇部で虚構の世界に。ほとんどこれ、逃避ですよね。
その後、早稲田大学第一文学部の哲学科に進むんですが、先輩にのちのSCOTの演出家・鈴木忠志がいて、あの人は背が高くて二枚目だし、同期には今の松本白鸚さん――当時の颯爽たる市川染五郎さんがいたりして、少々のコンプレックスを持ちましたよ(笑)。
歌舞伎研究家の郡司正勝さんの講義に2、3回出席したけど、女方の真似をなさるのがなまめかしくて面白かったですよ。その後いろいろあって中退しました。
ですから第1の転機は、中学時代に演劇の道に引き寄せられたことでしょうね。純粋に演劇というものに惹かれたというより、似たような境遇の仲間と擬似家族みたいにしていたのが楽しかったわけですけど。