大学に行かなくなった麿さんの行き先は、女優の山本安英が主宰する「ぶどうの会」に研究生として。演劇部時代の『夕鶴』上演に連なる縁か。
――そうですね。中学の時に自分たちで演劇をやってから、大阪で山本安英さんの『夕鶴』を観たんです。山本さんの幽霊っぽいような、霞んでるような立ち姿に惹かれましてね。母親的な幻想を見たような……。
「ぶどうの会」に入ると山本さんの講義があって、僕はいつもできるだけくっつくぐらいすぐそばに座るものだから、気味悪がられてました。(笑)
その「ぶどうの会」は、入って半年で解散・分裂しちゃったんで、僕は若手の劇作家や演出家の宮本研さん、竹内敏晴さんが結成した劇団「変身」というのについていったんです。
そこでどんな風の吹き回しか、モリエールの『ドン・ジュアン』の主役に抜擢されたの。黒いタイツをはかされたり、女優とキスの場面があったりで、もう恥ずかしくてね、田舎の青年でしたから。
ところが、初日の前の晩、淀橋警察署から「任意でいいから出頭せよ」という通知が来たので素直に署に行ったら、そのまま収監されてしまった。何ということもない、一年前に新宿の路上で仲間と一緒に喧嘩した、ということだった。
まぁ、じきに釈放になるんですが、それでも大事な初日に穴をあけたということで厳しい総括に遭いましてね。それで劇団に何となく嫌気がさして、新宿の風月堂という、そうした連中がゴロゴロしている喫茶店で一日中過ごすようになりました。