イザナキが目にした死者イザナミの姿とは
イザナキは妻にもう一度逢いたいと思い、黄泉の国を訪問する。この黄泉の地理的位置であるが、地下ならどこでもいいのか、大地のどこかから特別につながっているのかは分からない。
イザナキが地下に潜っていったとはどこにも書いていないという指摘もあるが、わざわざ「黄泉」の字を当てているのだから、空間的イメージとしてはたぶんやっぱり地下なのだろう。
イザナキはそこへどうにかしてたどり着く。さて、そこでイザナキが目にした死者イザナミの姿とはどのようなものであったか。
ここには二重のビジョンがある。第一のビジョンはイザナミを霊界で何らかの形で生きている存在(霊魂)として描いている。第二のビジョンはイザナミを腐乱死体として描いている。
第一のビジョンを建前とする大枠の物語は次のように語る。イザナミは黄泉の御殿から現われる。
イザナキは、一緒に帰って国造りを完成させようと言う。イザナミは逡巡する。死者の国の食べ物を食べてしまったのでもう戻れないのだ。
イザナミは黄泉の支配者らしき神に相談すると言って御殿の中に入り、私を見ようとしてはいけないと言う。この黄泉の神が何者かは分からない。
さて、イザナミは御殿に入ったきり、待てど暮らせど出て来ないので、イザナキは自分の髪に差した櫛の歯を一本取って火をつけ、灯とし、御殿の内部を覗いた。
するとそこにあったのは死者の恐ろしい姿であった。第二のビジョンとしての、死体の描写である。物質的崩壊としての死の本質を直視するものだ。