国民が見られなかった地図

日本の地形図とはまったく違う情報が満載なのであるが、実はこれらの地形図は一般の国民は見ることができない「秘密図」であった。

後で知ったことだが、この図式は東独の考案によるものではなく、大本はソ連である。

『地図記号のひみつ』(著:今尾恵介/中央公論新社)

その影響下にあった東欧やキューバなどの社会主義国にはほぼ共通するものであった。

たとえば、ある橋を戦車が通過できるかどうかは有事の際には重要な情報だ。ともすれば国の存亡に関わる。

思えば近代戦争になる以前であっても、敵が迫ってきたときに橋を切って落とし、侵攻を食い止める場面はいくらでもあった。

そもそも地形図は国防と切っても切れない縁があり、歴史的に見て、たいていどこの国でも陸軍が作成してきた。イタリアなどは現在でも陸軍の機関が担当している。

日本の地形図も現在でこそ国土交通省の国土地理院が整備しているが、第二次世界大戦が終わるまでは陸軍の陸地測量部が国の測量業務と地形図の作成を担っていた。