松本零士:著『新装版 銀河鉄道999 -アンドロメダ編 第1巻』(小学館クリエイティブ)

松本 そうなんです。ただ、父が私に話してくれたことで印象的だったのは、父親の赴任で旧満洲(現・中国東北部)の、朝鮮との国境近くに住んでいた時、肺炎で死にかけた幼い父に、パイロットだった祖父が飛行機の酸素ボンベを吸わせて九死に一生を得たとか。

戦争が始まる頃に日本への引き揚げが決まって、家財道具を船に積み終えたはいいけれど、家族はその船に乗り遅れてしまった。次の船に乗って帰国したら、家財道具を積んだ船が魚雷攻撃を受けて沈没し、全員亡くなっていた、と。

原口 最初の船に乗っていたら、名作の数々は生まれていなかった……。松本先生はどんな父親だったのですか。

松本 いつも家にいる面倒くさい人(笑)。ノッてくると話が長い。ただ、普段は寡黙で、自分の世界に入っているので、私が話しかけても返事もしない。そういう意味では勝手。

原口 うちの父もやっぱり面倒くさかったですね。何を聞いてもまっとうな答えが返ってこないから、私は大人になるまで何が普通なのかがよくわからなかった。

松本 それ、すごくわかります。家の中の普通が、よそでは普通じゃなかった。

原口 うちはオナラ推奨だったのですが、人前でオナラをするのは普通はダメじゃないですか。でも父はオナラはイヤなものではなくみんなを楽しくするものだ、と。だって、オナラをすると笑うじゃないですか。

松本 笑いますね、やっぱり。

原口 「今の音はよかった」とか家族間ではオナラ談義でメチャクチャ盛り上がってましたよ。水木の父親、おじいちゃんなんて「次は梯子」と言ってプープー、ププププと梯子段まで表現してた(笑)。あと、鶯の屁渡りとか。

松本 立派な芸ですね!