1日ベッドにいるだけで2歳老化する
私がそんな疑問を抱くようになった背景には、日々、患者さんを診ているうちに安静がもたらす害を実感するようになったからです。
1990年、当時34歳だった私は、岩手県立宮古病院で内科医長を務めていました。当時の宮古病院では、入院患者さんの多くが高齢者でした。
入院の原因の多くは肺炎や心不全などで、治療によって回復したにもかかわらず、ベッドから起き上がれなくなってしまう患者さんが多かったのです。治療のため、安静にして休んでいる間に、筋力が低下したことが原因でした。
一般的に筋肉量は、20代後半から30代はじめにピークに達したのち、1年経過するごとに1%ずつ減っていきます。しかし、体を動かさずに安静にしていると、早いスピードで筋肉が落ちていきます。
まる1日ベッドで安静にしていると、たった1日のうちに、2%の筋肉量が低下してしまうことがわかっています。
つまり、たった1日で2歳老化したのと同じことが起こるのです。
1980年代辺りまでは、腎臓病に限らず、多くの疾患の治療において安静が重要と考えられてきました。
例えば、心筋梗塞(しんきんこうそく)(心臓の血管が詰まって起こる病気)を起こした患者さんは、心筋の一部が壊死(えし)し、それが瘢痕(はんこん)(ケロイド)化します。
その部位が安定するまでは無理なこと(運動など)をすると心臓が破裂するとされ、長年、安静が推奨されてきました。
しかし、医療や医学研究の進展によって、そうした安静への志向に疑問が持たれるようになっていきました。
特に手術後に安静を保つことに疑問が持たれ始め、むしろ「安静は有害」という考え方が次第に広がり始めます。