安静第一から運動推奨へ転換した発端
安静第一から運動推奨へ、この転換を引き起こす研究の発端となったのは、あるラットの実験でした。
1995年のことです。私は、東北大学病院のリハビリテーション科(内部障害学分野・内部障害リハビリテーション科)に移籍し、そこで新たな研究に取りかかりました。
リハビリテーション(リハビリ)は、私が強い関心を抱いていた分野です。内科疾患で苦しんでいる患者さんに、リハビリの側面から何かサポートできるのではないかと考えていました。
リハビリといえば、それまでは整形外科的な疾患でひざや腰などを痛めた人や、脳血管疾患の後遺症で足などがマヒした人が、損なわれた機能を回復するために行うものに限られていました。
しかし、この頃、新たなリハビリの研究が多方面から進められるようになってきました。私自身も、心臓疾患の患者さんに向けたリハビリの研究を手がけることになりました。
そんな研究の流れの中で、私が始めた研究の一つが、末期腎不全のラットを使った実験でした。
腎機能が低下したラットに運動をさせると、尿にたんぱく質が混じります。そこで、実験目的の薬をラットに投与します。
すると、薬の効果により、尿たんぱくが抑制され、腎機能が改善すると想定していました。そのラットと比較するため、薬を使わずにラットに運動だけさせた群も用意しました。
この時点では、私自身もまだ、慢性腎臓病は安静第一という医学常識を疑ってはいませんでした。
ですから、当然、薬を使ったラットは腎機能が改善し、運動しかしていないラットの腎機能は改善しないと予想していました。
ところが、実験をしてみると、意外な結果が出ました。