姫君の生涯を託した賭け
母も祖母も亡くしていた紫の上が、実の父である兵部卿宮家(ひょうぶきょうのみやけ)に引き取られていたとしたら、継子(ままこ)として、北の方(かた)からの迫害を受けていたかもしれません。
かといって、源氏ほどの高貴な人物が、幼い紫の上を本当に大切にしてくれるかどうか、少納言の乳母にもはかりかねる難題でした。
父宮より早く迎えにきた源氏の車に、紫の上とともに乗り込んだのは、姫君の生涯を源氏に託した賭けだったといえます。
それより前、源氏の訪れの意味もわからなかった紫の上が、少納言の乳母にすり寄って「あっちへ行こうよ、もう眠いから」と言うのを、「こんなふうですから」と、男女の仲などわからないことを示しつつ、それでも紫の上を源氏の方へ押し出してみせたのも、少納言の乳母の判断でした。