腸と脳が情報のやり取りをして、お互いの機能を調整している<脳腸相関>と呼ばれるメカニズムが、いま注目されています。東京大学大学院総合文化研究科の坪井貴司教授いわく、「腸内環境の乱れは、腸疾患だけでなく、記憶力の低下、不眠、うつ、肥満、高血圧、糖尿病……と、全身のあらゆる不調に関わることがわかってきている」とのこと。そこで今回は、坪井教授の著書『「腸と脳」の科学 脳と体を整える、腸の知られざるはたらき』から、腸と脳の密接な関わりについて一部ご紹介します。
摂食という刺激が日内変動を調節する
マウスの糞便を6時間ごとに回収し、その糞便に含まれる腸内マイクロバイオータ(腸内に棲みつく微生物の集団)の種類を解析したところ、腸管内に存在する乳酸菌の一種であるラクトバチルスロイテリ菌の数が活動期(暗期)に減少していました。
一方で、デハロバクテリウム属の細菌が増加していました。
つまり、腸内マイクロバイオータの組成が日内変動することがわかったのです。
それによって、腸内マイクロバイオータが産生する腸内代謝物の種類も日内変動していました(1-1~1-3)。
ところが、時計遺伝子を欠損しているマウスでは、腸内マイクロバイオータや腸内代謝物の組成に日内変動は見られませんでした(1-4)。
ただし、このマウスに決まった時間に餌を与えると、腸内マイクロバイオータの組成に日内変動が再び見られるようになりました(1-5)。
つまり、摂食という刺激が、腸内マイクロバイオータの組成の日内変動を調節していると考えられます。