ブラーク仮説

パーキンソン病の初期では、嗅覚障害や便秘などの症状が生じ、その後、病気が進行するにつれて、日中に眠くなったり睡眠中に夢体験と同じ行動をとってしまうレム睡眠行動異常が起こったりし、その後、認知機能の低下などが見られるようになります。

実際、パーキンソン病の患者は、健常なヒトと比較して4〜6倍ほど認知症を発症しやすく、患者の約3割、発症から10年以上経過した患者の約7割に認知症が見られます。

『「腸と脳」の科学 脳と体を整える、腸の知られざるはたらき』(著:坪井貴司/講談社)

異常型α-シヌクレインは、まず腸管の情報を受け取る求心性迷走神経で凝集しはじめ、その後中脳へ輸送され、そこから次第に大脳皮質全体へと広がることが、2003年に明らかになりました(1-2)。

つまり、パーキンソン病は、異常型α-シヌクレインが、腸管の情報を受け取る求心性迷走神経から中脳の黒質のニューロンへと輸送されることで起こるのではないかと考えられたのです。

ドイツの病理学者・ブラーク夫妻が提唱したので、この仮説はブラーク仮説と呼ばれるようになりました。

ブラーク仮説が提唱される前までは、パーキンソン病患者ではドーパミンを分泌するニューロンが減っているため、健常なヒトのドーパミンを分泌するニューロンを移植すれば、パーキンソン病を治療できるのではないかと考えられていました。

しかしうまくいかなかったので、異常型α-シヌクレインが、あたかも病原体のように、腸とつながっている求心性迷走神経から中脳へ、またニューロンからニューロンへと感染してニューロンに蓄積し、その結果ニューロンを破壊して、パーキンソン病を引き起こすという仮説が提唱されたのです。