食物繊維はパーキンソン病予防に有効か?

神経疾患の一つ、レビー小体が大脳全体に蓄積していくレビー小体型認知症では、ルミノコッカス属やコリンセラ属の細菌が増加する一方、ビフィズス菌が減少することが報告されています(1-9)。

消化管の表面は、腸管上皮細胞がむき出しになっているわけではなく、杯細胞(さかずきさいぼう)と呼ばれる細胞がムチン(糖タンパク質)と呼ばれる粘液を分泌することで、粘液層を作り、腸管上皮細胞を覆っています。

このムチンは、私たちが摂取する食物繊維を腸内マイクロバイオータが分解して産生する短鎖脂肪酸が、杯細胞に作用して分泌を促します。

アッカーマンシア属の細菌は、このムチンを栄養源として粘液層に棲みついています。一方で、食物繊維(とくに水溶性)を摂取することでアッカーマンシア属の細菌が増加し、腸内の短鎖脂肪酸の濃度が上昇し、杯細胞からのムチンの分泌が促されて、その結果、粘液層が厚くなることも知られています。

食事由来の食物繊維が少なく食物繊維飢餓に陥ると、腸内マイクロバイオータが産生する短鎖脂肪酸の濃度が低下するため、杯細胞からのムチンの分泌が減少します。

その結果、腸管の粘液層をアッカーマンシア属の細菌が消化してしまい、粘液層が徐々に薄くなります。

すると、腸管バリア機能が低下し、腸管内の物質が直接求心性迷走神経や血中へと入り込むリーキーガットの状態になります。

このような状況で、もし腸内に異常型α-シヌクレインが存在した場合、異常型α-シヌクレインが求心性迷走神経に取り込まれ、それが脳へと運ばれ、脳内で蓄積することで、パーキンソン病を発症するのではないかと考えられます(下図)。

<『「腸と脳」の科学 脳と体を整える、腸の知られざるはたらき』より>

一方で、上記の研究結果から想像を膨らませて考えると、食物繊維(とくに水溶性)を多く含む食事を摂ることで、腸内マイクロバイオータが産生する短鎖脂肪酸を増加させ、杯細胞からの粘液の分泌を促し、粘液層を厚くすることが、パーキンソン病の予防、症状の進行を抑えるのに有効かもしれません。

・参考文献
1-1 Baba M et al., American Journal of Pathology 152, 879-884, 1998.
1-2 Braak H et al., Neurobiology of Aging 24, 197-211, 2003.
1-3 Friedland RP, Journal of Alzheimer's Disease 45, 349-362, 2015.
1-4 Chen SG et al., Scientific Reports 6, 34477, 2016.
1-5 Sampson TR et al., eLife 9, e53111, 2020.
1-6 Kim S et al., Neuron 103, 627-641, 2019.
1-7 Hasegawa S et al., PLoS ONE 10, e0142164, 2015.
1-8 Bedarf JR et al., Genome Medicine 9, 39, 2017.
1-9 Nishiwaki H et al., npj Parkinson's Disease 8, 169, 2022.

※本稿は、『「腸と脳」の科学 脳と体を整える、腸の知られざるはたらき』(講談社)の一部を再編集したものです。


「腸と脳」の科学 脳と体を整える、腸の知られざるはたらき』(著:坪井貴司/講談社)

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