ハァ小唄

美人の市丸に対して、可愛らしい勝太郎は対照的である。当時は「市勝時代」「勝市時代」と呼ばれ、その後もよきライバルとなった。

昭和8年の市丸の「天龍下れば」、勝太郎の「島の娘」「大島おけさ」「佐渡を想えば」は、いずれも歌い出しが「ハァー」で始まるため、「ハァ小唄」と呼ばれた。

『昭和歌謡史-古賀政男、東海林太郎から、美空ひばり、中森明菜まで』(著:刑部芳則/中央公論新社)

「ハァ小唄」には、鶯歌手とも呼ばれた芸者歌手の美声はもとより、10代の頃から小唄や端唄の修業を積んだ芸者の独特な間合いと節回しのよさが生かされている。

昭和11年(1936)1月には勝太郎の半生を描いた自叙伝的映画『勝太郎子守唄』が作られ、その同名主題歌と、「島の娘」をくずした「勝太郎くづし」(作詞:宇津江精二、作曲:佐々木俊一)のカップリングが発売された。これも10万枚を記録した。