「王道の偏屈ババア道だね」
私はその時、周りと自分の間に重厚なシャッターが勢いよく閉まるのを感じた。ただちに部活をやめ、ついでにたのきんトリオ好きのフリもやめ、その年の冬に一人で1ヵ月間フランスとドイツを旅した。
帰国後にリーダー格の女子が「あの時はごめんね」と謝りに来ても、閉じたシャッターが上がることはなかった。
14歳での一人旅という経験で、結局この世で頼れるのは自分しかいないということと、何かに帰属することが向かない自分の性質を痛感した私は、孤独や寂しさを回避するための人づきあいをやめた。
友達としての関係を保つのに宗教組織のようなルールの共有を強制されるのであれば、そんな関係は必要なかった。
若い時からそんな具合なので、私は友人関係を持続させるのが苦手である。しかし気がつくと、周りにいるのも私と似たようなへそ曲がりばかりで、互いに好き勝手をしていても、気が向いたら会ってしゃべれるようなスタンスが心地よい。
という話を息子にすると、「王道の偏屈ババア道だね」と笑われた。
『歩きながら考える』(著:ヤマザキマリ/中公新書ラクレ)
パンデミック下、日本に長期滞在することになった「旅する漫画家」ヤマザキマリ。思いがけなく移動の自由を奪われた日々の中で思索を重ね、様々な気づきや発見があった。「日本らしさ」とは何か? 倫理の異なる集団同士の争いを回避するためには? そして私たちは、この先行き不透明な世界をどう生きていけば良いのか? 自分の頭で考えるための知恵とユーモアがつまった1冊。たちどまったままではいられない。新たな歩みを始めよう!