絵巻物が伝える庶民ファッション
貴族ファッションを中心に取り上げてきたが、人口の大多数を占める庶民がどのようなファッションをしていたのか気になるところである。
男性の多くは、頭に萎烏帽子(なええぼし)を被り、膝下で縛る短い丈の小袴に盤領の水干形式の上着を着て袴の中に入れた姿が『伴大納言絵詞(ばんだいなごんえことば)』に描かれている。
『春日権現験記絵』には工事現場のような場所で労働に勤しむ男性たちの絵が描かれているが、彼らは筒袖(小袖)に膝下で縛る短い丈の小袴姿である。ほとんどが無地だが、ボーダー柄の男性も描かれているのが驚きである。
女性の髪の長さはまちまちで、肩あたりで切り揃えた者・長めの髪を首あたりで縛っている者など、髪型に大きな決まりはなかったと推測される。
衣服は基本的には筒袖(小袖)か少し広めの袖口の筒袖の着流しに腰布を巻いた姿、また「手無し」といわれる袖無しの着流し姿も『扇面古写経』に散見される。