物語でもリアルでもわかり合えない父と娘
「赤羽せんべろ まねき猫」は、10年間連絡すら取っていなかった父・時次郎が脳出血で倒れ、主人公・明日美が彼の「尻ぬぐい」をすることになる物語です。時次郎の立ち飲み屋さんは、コロナ禍で経営が悪化し、借金があります。そのうえ、ある事情があって、店を閉めることができません。続けなければならない。明日美は離婚して、コールセンターで働いているんですけど。病床の父親にずいぶん振り回されていて、自分で書いていながら、かわいそう。(苦笑)
そういう物語のイントロは、打ち合わせでアウトラインが固まった直後から考えていたんですが。実は今年の2月に、私の父が実際に倒れまして。家で、倒れている状態で発見され、いきなり半身不随になってしまったんです。今、長期入院しています。
父は家父長制を引きずってるような人で、家の中でいばってましたが、実際のところ、うちは母がいることで回ってました。父に「ワシの言うことは絶対や。おまえらは従わなあかん」なんて言われると、私は反抗して言い返してましたけど(笑)、そんなときは母に、「お父さんにそういう言い方をしちゃいけません」とか諭されて。昔ながらの、昭和のドラマに出てくるような家族でしょう? だから、母が亡くなったときには、「もう家庭ではなくなってしまった」と思いました。
私には姉がいるんですけど。母がいなくなった家で、父にバーッと言われると彼女はあまり反論とかできなくて、溜め込んでしまってましたね。「赤羽せんべろ まねき猫」の明日美は、結構溜め込むタイプだから、自分を反映しているというより、どちらかというと姉っぽい人でしょうか。そんな姉はずっと、父との関係性をこじらせてきてしまっているので。今、入院している父に関することは、私がするようにしています。
私は10代の頃からずーっと、絶対にああいう男とは結婚せぇへんと決めてたんですよ(笑)。倒れる前の父が、私が結婚した直後、家に泊まりに来たことがありまして。夫のことを「よさそうな人やなぁ」と言うので、「お父さんみたいな人だけは選ばんようにしようと思ってた」と返したら、冗談だと思ったらしく、「なんやそれ」と笑ってました。そんなふうに私はばんばん言いますし、娘たちとうまくいっていないことに、どこかでは気づいていると思うんですけど。たぶん、ああいうふうにしか生きられないんだろうな、と。今さら、変えられないんだと思います。考えの古い祖母から、長男として、大事に大事に育てられた人ですから。
先ほど(【前編】)から言ってますように、決して仲のいい父娘ではありません。でも明日美が時次郎の「尻ぬぐい」で立ち飲み屋を引き継ぐように、これからも、父とは関わっていくんだと思います。なんなんでしょうね、親子って。さっぱりわかりません。わからないから、書くんですかね。
え、今回のインタビュー、「赤羽酒場放浪記」ってタイトルになるんですか? ですから私、そんなにお酒強くありませんから。じゃあ、もう一軒だけ!