撮影:木村直軌
ある時は世界のセレブと交流を持つ元大統領夫人、またある時は若手音楽家に手をさしのべる社会活動家、そしてある時はバラエティ番組に体当たりで挑むタレント……。78歳となった今も八面六臂の活躍を続けるデヴィ夫人。その人生もさることながら、彼女のお金の哲学もまた独特のもので—(撮影=木村直樹 構成=平林理恵)

どんなに貯めても、お金は墓場には持っていけないから

マダム・ド・ポンパドゥールのイメージでしつらえたという豪華なサロン。壁には何枚もの絵画が飾られ、棚には、宝石をちりばめたブロンズ像や、パラパラと落ちるエメラルドの粒が時を刻む砂時計など、所狭しと美術品が並ぶ。ロココ調の椅子に腰掛けたデヴィ夫人は、開口一番、こう切り出した。「お金はね、まず敬うこと。お金を敬えない人からは、お金が逃げていくと思うの」

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お金を敬うとは、そのお金が生きるように使い切るということです。どんなに貯めても蓄えても、お墓には持っていけないではないでしょう? お金というものは使うためにある。一生懸命働いて得たお金を、自分の人生を快適にするために使う、これが“生かす”ということです。

このサロンにある美術品や調度品は、私が好きで集めたものばかり。どんどん増えてしまって、いろいろ置きすぎていますけれど。それでも、ここにあるのはごくごく一部。ニューヨークにもお家があって、あちらはもっとこだわっているの(笑)。赤の部屋、青の部屋、緑の部屋……とテーマごとに集めています。

ほかにも、お家には入りきらない巨大な彫刻や絵画などがたくさんあるので、倉庫を2つ借りて保管しています。だから今、新しいお家が欲しいのです。集めてきた絵画やアンティークが全部入る広さのお家が。

このような美しいものの収集にお金をかける一方で、それと同じくらい私が力を入れているのが、社会活動です。こちらは私の生きがいといってもいいかもしれません。

その一つが、才能があるにもかかわらず、経済的に恵まれない芸術家を支援するイブラ国際音楽財団の活動。立ち上げて27年になりますが、毎年イタリア・シチリア島のイブラ地区で、200ヵ国以上からアーティストを集め、2週間にわたってコンクールを行っています。そして、その入賞者を招いて、アメリカのカーネギーホールをはじめ、各国でコンサートを開く。アーティストを発掘して世に出すことが私の使命だと考えています。

ほかにも、パキスタン・カシミール地方の大地震の折には、何千枚もの毛布や防寒具を持って現地に入りましたし、東日本大震災の時は、被災地21ヵ所を回りました。また、動物愛護の活動には、ライフワークとして長年関わっています。これもお金を生かす方法の一つでしょう。

人間、生まれた時は何も持っていない、誰だってゼロですよね。つまり、人生において、自分が手にしているものは、実はすべて世の中からいただいたもの。当然です、人は一人では生きていけませんから。だからこそ、自分が生きているうちに社会に還元していく。これは、人様よりも多くのものを世の中からいただいてきた私の役目だと思うの。

こういった考え方は、キリスト教にはもともとあるものですが、イスラム教にも深い「施し」の精神があります。そのような精神を最も持っていないのは、日本人ではないでしょうか。

東南アジアやアフリカへ行くと、道端や市場でモノを売っている人に出会います。多くはその日暮らしを強いられている人たち。そんな弱い人たちを相手に値切る日本人の、なんと見苦しいことか。500円と言われたら、1000円出す、そのくらいの気持ちが必要ですよ。