源氏を一目見たい人たちが集まる

今年は、朱雀帝(すざくてい)が即位して初めての祭であり、勅命によって源氏も特別に供奉(ぐぶ)することになりました。

一条大路は、身分の高い貴族から庶民にいたるまで、一目でも源氏を見たいと思う人たちで、びっしりと埋めつくされました。

『美しい原文で読む-源氏物語の恋のことば100』(著:松井健児/中央公論新社)

源氏の正妻である葵の上は、源氏の子を懐妊していました。

気分もよくないときでしたが、女房たちにせがまれて、しかたなく遅れてでかけました。

大路にはすでに牛車(ぎっしゃ)が立て込み、入る場所がありません。

祭の酒の酔いもあって、葵の上の従者たちは、左大臣家の権威をたのんで、あたりの車を退かせます。