激しい乱闘
なかに、目立たないようにしている車がありました。
その従者は、「これは断じて、そのように押しのけなどしてよいお車ではない」と宣言します。六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)が、ひそかに祭に来ていたのです。
六条御息所は身分の高い女性でしたが、夫であった皇太子が亡くなり独身でした。
源氏の熱心な求愛によって、長く愛人のような立場にありました。従者のプライドが高いのも当然です。
車の女性の正体を知った、葵の上の従者は、「源氏さまのお通いどころだからといって、何を言うか」と言葉を返し、激しい乱闘となります。
葵の上方の年配の従者は「そんな乱暴をするな」と言いますが、互いに酔っている若者たちを制止できません。
ついに六条御息所の牛車の榻(しじ)も折られ、奥へと押し込まれてしまいました。今でいえば車のバンパーが、へし折られてしまったようなものです。