「無壁舎」の定義
記号の最初は明治17年(1884)に京阪神を中心に整備が始まった「仮製地形図」が「無壁(むへき)家屋」として採用したもので、大正6年(1917)図式からは「無壁舎」と呼ばれている。一般には馴染みのない用語であるが、文字通り壁のない建物が対象だ。
地形図を読むための参考書として大正3年に刊行された『地形図之読方』によれば、「柱ノミヲ有スル屋舎ニシテ周囲ニ囲ヲ設ケサルモノ、仮令ハ(たとえば)停車場プラットホーム建物ノ如キモノニシテ(後略)」としている。
大正初期にプラットホームという用語が一般に通じていたとすれば意外だが、もともと鉄道は英国直輸入のシステムであり、当初は停車場も「ステーション」と呼んでいたぐらいだから当然かもしれない。
国土地理院が定める最新の「平成25年(2013)2万5千分1地形図図式(表示基準)」では、この無壁舎を「飛行場の格納庫、市場、動物園の檻、温室、畜舎等、側壁のない建物をいう」と定義しており、守備範囲はずいぶんと広いことがわかる。
「温室にはビニールやガラスの壁があるじゃないか」という反論も可能だろうが、四面を堅固な壁に囲まれた(もちろん円筒形の建物でもよいが)建物とは異なる構造をもった建築物を広くカバーしているというわけだ。ちなみにこの新図式から記号の色を、雪覆い等は黒、その他の無壁舎は赤と区別するようになった。
無壁舎と一口に言っても、実際に地図を編集する現場では時に判断がつきにくい対象が現われて迷うこともあるだろう。