地図を読む上で欠かせない、「地図記号」。2019年には「自然災害伝承碑」の記号が追加されるなど、社会の変化に応じて増減しているようです。半世紀をかけて古今東西の地図や時刻表、旅行ガイドブックなどを集めてきた「地図バカ」こと地図研究家の今尾恵介さんいわく、「地図というものは端的に表現するなら『この世を記号化したもの』だ」とのこと。今尾さんいわく、「雪覆いと落石覆いに対して地形図では同じ記号を用いている」そうで――。
「雪覆い」から甲子園まで! 無壁舎とは?
日本海側では大雪の被害が頻繁に報じられている。想定以上の積雪のために立ち往生した車中に閉じ込められるニュースを時折耳にするが、不運なドライバーたちは、それぞれ大変な昼夜を過ごしたのだろう。
しかし大雪が止んで晴天になればほっとしたのもつかの間、急な気温の上昇で恐ろしいのが雪崩(なだれ)である。特に山間部などの道路で人や車両がこれに巻き込まれれば命に関わるため、道路や線路を守るために雪覆い(スノーシェッド)が設けられてきた。
古くは「頽雪覆(たいせつおおい)」と呼ばれたが、「頽」は「崩れる」という意味である。ただしこの構造物は雪国だけのものではない。
山が多い日本列島では、たとえ「南国」であっても急峻な地形をたどる道路や線路は落石の危険に対処する必要があり、同様のものが「落石覆い」という名称で、全国各地に数多く設けられている。
雪覆いと落石覆いに対して地形図では同じ記号を用いており、道路や鉄道の記号をその部分だけ隠す形で斜線を載せたのがそれだ。破線で描かれたその輪郭に囲まれたシェルター部分には左上→右下方向の斜線をびっしり引いてある。この記号は実はシェルター系の建造物に限らず、長らく「壁のない建物」一般に用いられてきた。