(写真提供:Photo AC)

大石静さんが脚本を手掛け、『源氏物語』の作者・紫式部(演:吉高由里子さん)の生涯を描くNHK大河ドラマ『光る君へ』(総合、日曜午後8時ほか)。ドラマの放映をきっかけとして、平安時代にあらためて注目が集まっています。そこで今回は〈刀伊の入寇〉と『源氏物語』と現地の女性たちについて、新刊『女たちの平安後期』をもとに、日本史学者の榎村寛之さんに解説をしてもらいました。

〈刀伊の入寇〉と『源氏物語』と現地の女性たち

この事件は『源氏物語』に描かれるような優美でおっとりとした平安時代とはずいぶん違うイメージのように思われるかもしれない。

しかしじつは『源氏物語』にも、これに類する人物が出てくるのである。

「玉鬘」巻に出てくる「大夫監」がその人だ。

彼は大宰の監、大宰府の三等官だが大夫、つまり五位の位を持ち、「大夫監とて、肥後国に族ひろくて、かしこにつけてはおぼえあり、勢ひいかめしき兵ありけり(大夫監といい、肥後国に一族が多く、その地域ではよく知られた勢力者の猛者がいた)」、今の熊本県あたりで繁栄した一族で、有名で勢いのある「強者」だという。

この男が光源氏の元の恋人の夕顔の忘れ形見(父親は若いころから源氏のライバルだった頭中将)である玉鬘に強引に言いよるので、玉鬘は乳母やその子の豊後介らと都へ逃げてきたのである。

この大夫監、勢力を持つ国は違えど、大蔵種材とイメージが非常に重なる。

もとより彼らは摂関家などと関係を持つ有力者で、その現地代理人として唐物交易にも当たっていたわけで、紫式部もそういう存在を知らなかったとは思えない。

つまり「玉鬘」の物語は、〈刀伊の入寇〉がある20年も前から、北九州が似たような状況になっていたことを示しているのである。