娘の存在が父にとっての誇りに

秋吉 仕事で活躍する娘が誇りだったのでしょう。そして、無邪気に喜んでいたんじゃないでしょうか。

『母を葬る』(著:秋吉久美子、下重暁子/新潮社)

下重 その時、私はね──それがすごく恥ずかしくて、嫌でたまらなかったの。お父さん、なんでこんなことするのよ、って叫び出したいくらいだった。

ベッドの近くには父が書きつけた俳句も貼ってありましたが、私について詠んだとしか思えない句も混ざっていて、「もう、やめてよ」って、居たたまれなくなりました。

秋吉 少女時代から続くわだかまりがとけていなかったんですね。

下重 それまで、ろくにお見舞いにも行かなかったの。

秋吉 気まずかった?

下重 父は10年くらい療養所にいて、亡くなった時には私自身も40歳を過ぎていましたが、父と二人きりになった時に何を話せばいいのか、まったく想像できませんでした。父はぜんぶで三度の“迎合”をしています。