写真◎新潮社
親を看取る時が訪れたら…どのように受け入れ、それから先の人生を歩んでいけばいいのでしょうか。年月が過ぎても「母を葬(おく)る」ことができないのはなぜか。女優・秋吉久美子さんと作家・下重暁子さんが“家族”について語り合った『母を葬る』より、一部抜粋してご紹介します。子どもの頃、父に対してわだかまりを抱いていた下重さん。変化が訪れたのは、父が旅立ってから――

父との関係

下重 私の父は、老人性の結核を患って長いあいだ清瀬の療養所にいました。当時、東京の清瀬には結核の療養所が集まっていたんです。

私と父の間に感情の行き来はほとんどなくて、亡くなる直前にようやく会いにいきました。母はずっと付き添って父の世話を焼いていましたが、私に気を遣っていたのでしょう。

秋吉 娘を呼ぶと、喧嘩になるから?

下重 どうでしょう。きっと仕事を理由に訪ねてこないだろう、って思ったのかな。実際にとても忙しくしていましたからね。

病室に足を踏み入れると、雑誌から切り抜いたインタビューの記事と、新聞に載った私の写真が父の枕元にピンで留めてありました。