口に入れた瞬間、冷凍グラタンの虜になった

幼稚園のお昼はお弁当を持って行く日と給食が出る日が交互になっていた。

絵の具で塗ったような発色のいいタコさんウィンナー、ふかふかな黄色いナゲット、あざやかな色のピック……。お弁当の日は、友達のカラフルでポップなお弁当が眩しく見えた。

井上咲楽
(撮影:荻原大志/写真提供:徳間書店)

特にびっくりしたのが、友だちとお弁当の具を交換した時にもらった冷凍グラタンだ。

口に入れ、舌に触れた瞬間においしさが伝わってきた。私は一瞬で、クリーミーでまろやかなグラタンの虜になった。よく噛んでようやくおいしさがわかるような素朴な食べ物ばかり食べていた私は、脳が覚えて忘れられないグラタンのあのおいしさをもう一度味わいたいと、そう思った。

しかし、母に冷凍のグラタンを買ってほしいと普通に頼んでみてもきっとダメだと言うだろう。幼い私なりに考えて、「冷凍グラタンのカップの底には占いが書いてあって、それがやりたいから買ってほしい」とお願いした。

すると母は、占いが書いてあるカップを買ってきて、そこにおかずを入れてお弁当に詰めたのだ。

こちらの真意を見抜いているのが、なんとも母らしかった。