百貨店のコスメ売り場
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知恵と度胸で充実した生活

このおとなしく見える女性の行動のどこがおとなしくないのだろうか?彼女の行動には、独自の知恵が潜んでいたのである。

彼女が銀行に行くまでうつむきがちだったのは、自宅で化粧をしてこなかったからである。銀行の傍には百貨店があった。銀行での用事がすむと、彼女は百貨店の1階の化粧品売り場に並べられているファンデーション、パウダー、頬紅、口紅を試すふりをして、超スピードでつけた。

店員さんが「お化粧をしましょうか?」と近寄って来て声をかけると「急いでいるので」と言って断った。その百貨店の化粧品売り場は広く、毎日、違う売り場に彼女は出没した。

時には試供品をくれる店員さんもいた。彼女はそれを大切に使った。下地だけ家で、頬紅だけを化粧品売り場でという変化技も使った。

しかしある日、彼女はお試しのルールに反すると気づいて反省してやめ、私に「真似をするな」と言った。

昼休みにカーディガンと眼鏡を持って行くのは、その百貨店のイベントで一人一品が無料で配られる時に変装をするためだった。彼女は百貨店の階段を素早く登り、イベント会場から見えないように身を隠し、カーディガンを着たり、眼鏡をかけたりしてした。当時、百貨店は平日でも混んでいて、なにか無料で配るとなると大勢の人が並んだ。「あなた先ほど並びましたよね」などと、気づくイベント会場の人はいなかった。これも若気の至りと今は深く反省しているそうだ。