付箋布マスク
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節約はゲームの一環

マンションでの1人住まいを始めてから、彼女はトイレの水をいちいち流さなくなった。水道代の節約である。電気代がもったいないからと、他の部屋からの明かりを頼りにトイレのドアを開けて入っていた。

彼女は旅行が好きだが、ヨーロッパ旅行に行くとき花粉症だった。友人が当時は一般的には珍しかった不織布のマスクを「使い捨てだけど」と言って彼女に渡した。10日間の旅行から戻り、友人が彼女が黒ずんだマスクをしていたので尋ねると、「毎日洗って、干して使っている」と言った。そのあまりの黒ずみ方に、友人はもう一枚あげた。

彼女の趣味は株式投資と不動産の売買だ。引っ越しはたびたびできないので、他の独身女性がマンションを買いたいと言えばアドバイスをしていた。「助かる」と言って、感謝する友人たちもいた。

株で儲かった時は、会社の後輩たちに声をかけ寿司屋に連れて行き、「好きなだけ食べていいよ」と言い、後輩たちは、吐きそうになるまで食べた。

株で損をしても、また取り戻すと意欲をみせ、ものすごく落ち込んだりはしない。

病気で入院した時は、病気のことよりも医療保険が出ると喜んでいた。

どんなことがあっても、彼女は生き延びるだろうと私は思っていた。

案の定、80歳を前にしても、株の売買、マンション売買に心が浮き立ち、お得な事を目の前にするとひるむことがない。

ファッションのセンスが良く、「何処で買ったの?」と聞くと、「フリーマーケット以外では買わない」と言っていた。トイレの水はあいかわらず、いちいち流していないそうだ。

「節約ってゲームをしているみたいで面白い」と言っていた。

細心にして、大胆な金遣い。その揺るぎない度胸と根性は尊敬に価する。

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