タブレットPCを操作する高齢者
(写真:stock.adobe.com)

不可思議な行動には意味があった

ケアマネジャーさんが、母の認知症が悪くならないように、訪問で認知症のリハビリをする人を介護のメンバーに入れた。その時から、母は変な仕草をすることになった。

私が「ケーキを買ってきたよ」と母に差し出すと、人差し指でケーキの上を左から右にさっとなぞるのである。私が母の好きなカレーライスを作り、テーブルに置くと、カレーライスの上を人差し指でさっとなぞり、「アチッ」と言い、火傷しそうになっている。私がテレビを見ていると、私の額を人差し指でさっとなぞるのである。

これは祝日に謎が解けた。私は家にいて、ドアの隙間から、認知症のリハビリはどうやってやるのかをこっそりと見ていた。療法士(リハビリ専門職)は若い男性で、iPadを母の前に置き、母に指で操作させ、いろいろ見せていた。そして航空写真から「ここが、しろぼしさんのおうちですよ」と示していたのである。その指の動きを覚えた母は、なんでもかんでもスクロールしようとするようになったのだ。

さて、兄の統合失調症に認知症が加わり、兄は入院した。母は兄の入院が分からず、しばらくは家にいると思っていたが、そのうちいないことを理解した。すると、母はデイサービスに行くようになった。母親の責任として、兄に食事を作らなくてはいけないとか、通院日の朝には起こさなければと思い、出かけられなかったのである。

母が亡くなってから、私は母がいつも坐っていた場所に坐った。するとエアコンの風が顔にあたり辛かったのである。認知症の家族を抱えることは大変なことだが、認知症の立場になってみないと、分からないことが分かった。 

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